Arcadia Blues Discussion #1

DON vs Moostop & Bukkabilly


 昨年の春、73歳のボブ・ディランが来日し、ほぼひと月日本をツアーした。ボブ・ディランとは、偉人である。現代のような時代に生きていると、押し寄せて来る無限なるどうでも良い情報に記憶はどんどん刷新され、本当はやるべきだったことをスルーしても「まぁいいか」という気分になってしまう。実際ボクも行かないでおこうとしてもいたのだ。let's think it again。偉人であるボブ・ディランが東京にいてライブをやるというのに、彼に多大なる影響を受けたボクが見に行かなくて良い訳がないではないか。危ない危ない。マッタと二人で出掛けた。列に並んでいると、誰かが声をかけてくる。なんとそれは10年振りに会う、ズボンズの初代ドラマーのブッカビリーであった。

 ボクと彼はズボンズをやっていた時に大いにやりあい、結果としてブッカは"BombFreak Express"のレコーディング途中でバンドを離れることになる。今考えると、ボクもあそこまでひどい仕打ちをやることは無かったなと思うし、Highway A Go GoからMo' Funkyに至るまでのズボンズの重要な楽曲群は、メンバーの4人が出来る限りの力を出し合って、どうにか良いものを作り上げようと膝を突き合わせて努力した結晶であって、それらが生まれたことにむしろ感謝しなければならないくらいである(こと楽曲制作に関して言えば、その頃が一番「バンド」として作っていた)。あの頃は良かった/しかし大変でもあった、反省・後悔、そのような複雑な心境もあってなかなか素直にブッカビリーとも関係を持てなかったのだけれど、年も重ね、そもそもバンド自体も解体してしまっていたので、懐かしさと曲だけが良い思い出となり、ようやく「昔からの良い友人」に戻れたような気がした。文中にも出てくるが、ブッカビリーは今も”ダチャンボ”と”デンジャーデンジャー”という二つのバンドでドラムを続けており、相変わらず音楽を愛している姿を嬉しく思う。

 一方、言わずと知れたムーストップとも、昨年3月"Magic Mountain"発売のライブで一緒にやったのが会った最後であり、相変わらず仕事で忙しくしているのかメールの返信も来ないくらいであった(きっと嫌われてしまったのだろうと思っていたが)。20年間音楽を続けた後にキッパリと縁を切ってしまった彼の今の心境はどうなのだろうか。

 新たにソロアルバムが完成し、バンドサウンドから離れて作った"Arcadia Blues"を、そんな彼らがどう聴くのか興味があり、飲み会にかこつけて誘ってみた。1月某日。場所は吉祥寺である。








『なにもはなされなかった~Nothing Was Delivered』

DON(以下d): まぁ、おれ達は「ズボンズの音楽」というものが、フェイクから始まってその独自性みたいなものが完成するまでの間、激しく格闘し合いながら一緒に戦闘をくぐり抜けてきた戦友のようなものでしょうか。その戦いの中で一人抜け、また一人・・・と(笑)「

Bukkabilly(以下b):おれが一番早かった。

d:いや、その節は。ハハ。まぁでも自己弁護ではないけれど、本当に独自の何かを見つけ出すにはさ、相当なエゴの押しつけやぶつかり合いが必要だったのだ、ということで許して欲しいのだけど。

b:(笑)今は、それが必要だったのは分かるよ。当時はきつかったけどねぇ。

d:すんません。でもまだブッカビリーがドラマー続けてて良かったな。人生も長くなってきてさ、それぞれが自分の年の重ね方をして行くじゃない。その間に自分が得たものをそれぞれの見方から話すことが出来るもんね。ともかくもおれ達は音楽をやることで人生を送っている訳だから。・・・あれ、やってない人もいるねぇ。

Moostop(以下m):ハイー。ベースの弦、錆びてますー。

d:困ったなぁ。(笑)でもおれのキャリアの中ではさ、二人は非常に重要な役割を果たしてくれたと考えている訳。スタートは何者でもなかったじゃない?ただのフェイクで、音楽そのものを舐めきっててね。適当なブルースのリフを引っ張ってきて、ロックのビートでやたらと激しくやれば良いのだという感じで。

b:なんとなく時代的にもフェイクがかっこ良かった頃でもあったしね。

d:だなー。でもそうしていても、どこか「自分はニセモノでしかない」という事実を容認出来ない自分もあってね。「いつか自分の音楽」と言えるものを作れるようにならなきゃと思って、その理想にまだ追いつけないフラストレーションもあって、「まだまだ、まだまだ」と格闘していたのだなと思う。まぁ、それを思い切りぶつけられていたムーちゃんもブッカも大変だったでしょうね。ハハ。すんません。

m:まぁまぁ。

d:いやー、こうして仲良く飲めるまで大人になって良かった。それで、ムーちゃんは離れて1年半、ブッカビリーは離れて16年、という戦友達がこの"Arcadia Blues"をどう聴いてくれたのかな、という興味があるんだよ。おれにしてみれば結構制作プロダクションも違うし、バンド演奏から大きく舵を切ったように考えているし、ずいぶんと新しくなったぞという自負があるのだがね。

b:確かに作り方はかなり違うように聴こえたけどね。今はカセットテープの時代と違ってPC使って録れば以前とはまったく違うクオリティに出来るからさ。それでも俺にはそこまで昔と違う音楽になっているとは感じなかったね。

d:ナニー!

b:(笑)もちろん、サウンドプロダクション的には色々なことやってんなーと思うんだけど、基本的には「なんかこの感じ、俺知ってるぞ。」という感じ?

m:ウンウン。

b:まぁだから「あー、これはドン・マツオの音楽だな。」と合点した訳なんだよね。かっこよかったよ。

d:むー、そうなのかー。

m:俺も大体同じ意見だけどね。結局出ちゃう匂いは隠せないというか、今回真剣にHip Hopに取り組んでいるなーとは思いつつも、根本は全然変わってない。

d:なんとー!

m:昔から知ってる人間だからねー。

d:・・・えー、座談会、これにて終了します。

m&b:(笑)



『ときはゆっくりすぎる~Time Passes Slowly』

d:キミらちゃんと聴いてきたのかな。

m:聴いた、聴いた。まぁでも何か聴き覚えがあるなぁ、という。

d:ムーちゃんも何曲かでベース弾いてるしな。

m:1曲じゃない?

d:いや、3曲かな。スタジオでリハーサルやる時に録音した曲もあるし、ウチに来てコードだけ教えてちょこっと弾いてもらったのもあるよ。その辺のは新しいズボンズのアルバム用に作ってたんだよ。ムーちゃんが辞めてご破算になってしまったけどさ。

m:あぁいや、すんません。

d:おれ的には取りこぼし無く使わせてもらったから大丈夫。アルバム作るのって好きなんだ。おれは1曲々々というシングルタイプでなくて、アルバムタイプのミュージシャンだなと思う。トータルで一枚の絵みたいに見えるのが好きなんだよな。

m:ライブもそうするもんね。

d:うん。ところで、最近はどういうの聴く?まぁ、ムーちゃんは音楽から遠く離れてしまってるでしょうけど。

m:いや、アート・ブレイキーのライブ盤とかねぇ。

d:50年代じゃないかー!

b:俺も現在進行で発信されてる音楽なんか分からないね。

d:マジか・・・。とんだミュージシャン達だな。

b:(笑)もう掘り下げに次ぐ掘り下げばっかりよ。

d:じゃぁまさか未だに・・・・・ローリング・ストーンズなんか聴いてるんじゃないの?

b&m:(笑)まさかまさかー。

d:まぁ、おれは個人的に69年から73年までのストーンズのライブをツアー毎に聴き比べて、ミック・テイラーがバンドに馴染んでいき、それによってバンド全体のサウンドがどう変化していったのか、またそれにどれだけ時間がかかったのかを、ここのところは研究しているのだけど。

m:(笑)相変わらずだねぇ。

d:やぁ、でもバンドのサウンドというものを作り上げるのは、やはり時間のかかるものだなと思うよ。



『時代は変わる~Time They're A Changing』

d:さっき、おれ達がバンド始めた頃はフェイクでかっこ良かった時代だったという話があったけど、考えてみたらちょうどバブルで円高になって輸入盤も安く手に入るようになってきたし、レコードからCDに移行したから持ち運びもコレクションも簡単になって、それまでマニアックだった音楽も幅広く簡単に手に入れることが出来るようになった時代だったというのもあるね。大きな変革の時代だったんだな。だから(自分にとって)新しい音楽やリズムを発見しては「あれとこれを融合してみて・・・」とかやるだけで何か新しいものを作ったような気になれたんだろうな。だからおれ達よりももっと前の世代の人達、1ドルが380円で輸入レコード買うのも大変だった世代の人達からすると、すごく便利になって甘やかされた世代みたいに見えてただろうなと、今は思う。

b:今はそれがもうYoutubeになって、もっと手軽なっちゃってる。

d:まさに。でもおれ達にはまだ「王道はこれ」みたいな意識はまだ残っていて、そういうものを聴くところから音楽の世界に入ってきているから、今の「全部最初から、ある」という世代のミュージシャンとは随分違うように感じるよ。今は自由になったところから、更に自由になってしまったという感じだな。

m:Youtubeなんか見ていると、なんだか途方も無い感じするんだよね。ありすぎてどれを聴いていいか分からん、というか。

d:今から音楽始めるとなると、どうなったかな。Youtubeではさ、ミック・テイラーのギターソロの弾き方、とかアート・ブレイキーのドラミングとかUPされてて、単純に考えてもテクニックなんかは上がりそうだけど。

b:実際、若者は上手いのたくさんいるよ。

d:まぁ、そういう環境の中で、おれ達とは違う視点からまた新しい音楽は作られていくのだろうな。



『きみはきみの(ぼくはぼくの)道を行くことになるだろう~Most Likely You Go Your Way(and I'll Go Mine)』

d:そこで、ここまで結構長い時間、ズボンズ結成からしても20年以上音楽をやり続けて、自分の変化をどう考えるかね?

b:そうだなぁ・・・若い頃に雑誌なんかで熟練したドラマーが言ってた「力を抜いたドラミング」というのが、ようやく分かってきたように思う。今はダチャンボとデンジャーデンジャーという二つのバンドをやっていて、片やサイケでリズムも複雑で、もう一つはすごくストレートなガレージロックで、どちらかといえばガレージなドラムが俺の本領なんだけど、ダチャンボの方は自分では絶対手を出さない音楽だと思うのね。だからこそチャレンジすることが出来て楽しい。自分のキャパシティも広がるし。それでも、俺自身は出来ることと出来ないことがあるし、例えばアフロビートをトニー・アレンみたいには叩けっこないじゃない。でも、「自分の出来ること」の範囲内でその感じを出すことが出来れば良いんだという気分だね。だから技術として高いところを目指すというよりは、自分を突き詰めていければ良いなと思うよ。

d:そりゃそうだな。で、音楽を辞めているもう一人のおっさんは・・・?

m:えー、只今ご紹介にあずかりました・・・・ていうか、時々はあのまま続けていたらどうなってたかなと考えることはありますよ。でも、とりあえず今の仕事に打ち込んでいれてるからね。もっと時間が経つとやりたくなるかも知れないけど。

d:彼方でまた会おう!というとこか。今日はどうもありがとね。2/1はさー、ムーちゃん来れる?

m:うん、多分大丈夫。

d:お、ブッカビリーはDJで来てるし・・・・ついでにスティックも持って来たらどうかな?

b:あれ?

d:ムーちゃん、ベースの弦あげようか?

m:(笑)

d:なんだ、せっかく一緒にいるんだからちょっとやろうぜ。なーなー。

m&b:(苦笑)

d:3時入り。よろしくー!



という訳で、ブッカビリーは元々DJとしてリリースイヴェントに参加してもらう予定ではあったのだが、上記のように無理矢理にステージに立ってもらうことにした。ムーストップも、どうせライブ見に来るならやったら良いじゃないかということでステージに。おかえんなさい。そもそもマッタさんはおれのソロバンドでやるのでいるのだし、さてこの四人で何をやることになるのでしょう?と、しらばっくれておこう。考えてみれば、ドン・マツオ、マッタイラ、ムーストップ&ブッカビリーの四人だけで演奏するのは、1998年の"Let It Bomb"ツアー以来か。フム。ボクもちょっとZのモードに気持ちと身体を引っ張り上げる必要がありそうである。乞うご期待!


☆☆☆





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